人生儀礼と扇

人は生を受けてから死を迎えるまでの間、人生の節目に様々な儀礼を経験します。

これらは人生儀礼とか通過儀礼と言われていますが、その多くは宗教や生活習慣と深く結び付いています。

例えばキリスト教の国においては(宗派や国によっても違いがありますが)幼児の時洗礼を受け、やがて大人の仲間入りをする頃になると信仰を告白し初めて、聖餐を領することになります。
その時親類縁者を集めて盛大なお祝いをするようです。

そのような儀礼のうち、人生最大の行事にあたる結婚式や葬儀にも華麗な、あるいは清楚な式が執り行われます。その時参列者は綺羅を飾り、またそれにふさわしい美しいハレの扇子をたずさえて臨みます。また葬儀には黒色で身を覆い喪を表しますが、婦人はそれと同色の扇をもって式に列します。



日本には”祝儀扇”と呼ばれる扇の一群があります。主に10本骨か11本骨で作られた白扇や金銀の扇と松竹梅、鶴亀、蓬莱山などの吉祥図が描かれた扇です。

たいていの家庭は赤子が誕生すると生後まもなく地元の神社に参詣します。その時”宮参りの末広”といって簡単な扇を神前に奉賽する習わしがあります。子供が成長して七五三の宮詣での時に持つ可愛い扇もあります。いにしえには男子が成長すると元服の式が行われていましたが、その時の末広の扇については種々の言い伝えがありますが、今は作られていません。

結婚に先立ちお互いの意志が固まると、それぞれの持ち用の扇を取り交わす美しい風習があります。

また結納の時に必ず末広の扇がそえられることは良く知られています。婚礼の時、花嫁は象牙の親骨に房付きの扇を、参列する婦人は蝋色の塗り骨の、共に金銀の箔押しの扇を持ちます。金銀には邪を寄せ付けない意味があるからでしょう。 男性は花婿、参列者共に白竹の白扇となっています。

また還暦、古稀、喜寿、米寿などを寿ぎ、おめでたい扇をあつらえ配ることが多く行われます。

凶事には、古くから鈍色の扇を持つことになっています。一周忌、三回忌などの年忌法要の折りには故人の遺墨を扇に刷り込み遺徳を偲ぶことも行われています。

よく儀礼や仕来たりにはその国の歴史と文化が反映されていると言われます。そして扇という小さな持ち物の中にも優しい日本の美が見い出せるのです。

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